犬が身体で自分の気持ちを表す「ボディーランゲージ」のなかには「カーミングシグナル」と呼ばれるカテゴリがあります。
これは犬社会を円滑にするためのとても重要なボディーランゲージになっています。
カーミング・シグナルとは?
ノルウェーのドッグトレーナーであるTurid Rugaas(トゥーリッド・ルガース)が犬同士の上記のコミュニケーション方法を分類し「カーミングシグナル」(Calming Signal)と命名しました。
- ボディランゲージの一種 “The Language of Peace”
- 不安やストレス、または興奮を感じたとき
- 相手(と自分)に、落ち着きを促すための合図
- 無用な争いを回避するための身体を使った表現
しかし、生まれや育ちの環境によってはカーミングシグナルを学ぶ機会がないまま人間の家庭に入り犬としての常識やルールを身につけていない家庭犬がとても多いのが現状です。
犬が命を守るための「最重要」語
そして、犬も人もこのシグナルを読み取り適切な返答(ボディランゲージ・行動)をすることができないと…
- 犬同士のケンカ(咬傷事故)
- (人は)犬に噛まれる!
- 飼い主の言うことを聞かない!!
という事態が発生します…。
犬とともに暮らすのであれば犬はもちろん飼い主も「犬語」はしっかりと覚えておきたいとても重要な「ことば」になります。
Calming Signals – The Art of Survival – by Turid Rugaas
以下のURLがトゥーリッド・ルガース氏のウェブサイトです。
カーミングシグナルについて英語とノルウェー語で解説しています。
- http://en.turid-rugaas.no/calming-signals—the-art-of-survival.html
- http://en.turid-rugaas.no/calming-signals-photos.html
カーミング・シグナルの種類
諸説ありますがカーミングシグナルに分類できる犬のボディーランゲージは以下の約30パターンがあるといわれています。
いくつか統合できそうな項目もあり個人的には少々分類が冗長な気もしますがルガース氏の定義に則って(訳しながら)ひとつずつ解説してみたいと思います。
1. ゆっくりと歩く
Walking slowly
他の犬を見つけたら一旦立ち止まる。
その後、ゆっくりと歩き出し何度か止まりながら相手に近づく。
ほかの犬に近づくとき、正面からまっすぐには近づかない。
相手の犬から(仲良くしてくれるかどうか)メッセージを貰うための呼び掛けのポーズ。
相手からメッセージが返ってこなければ、近づくことはしないのが礼儀。
Suzyの補足解説
相手の気持ちを確認せずにそのまま突進していけば喧嘩になるのは当たり前なのです。
2. 体を横に反らす
Turning the side
犬同士が近づいたとき視線を避けるように体を横に反らす行為。
自分の脇腹を相手に見せ相手に対して敵意がないことを表す。
人間の言葉に置き換えれば「こんにちは!」
Suzyの補足解説
脇腹は犬にとって「急所」であり、その「急所」を自ら差し出すことで敵意がないことを示していると言われます。
3. カーブを描きながら近づく
Walking in a curve
犬は相手に近づくとき、まっすぐ一直線に向かっていかないのが犬社会におけるルール。
犬社会においては、カーブを描くように斜め前から相手に近づくのが礼儀正しい挨拶の方法です。
相手に敵意がないことを表すシグナル。
Suzyの補足解説
一直線に相手の真正面に向かっていくのは敵意を表す行為で、喧嘩になって当たり前。
愛犬が自分から礼儀を守った行動がとれないばあいも、礼儀正しい近づき方になるよう飼い主が誘導してやることで、だんだん正しい近づき方ができるようになります。
4. 横を見る
See the side
見知らぬ犬同士が近づくとき、目と目や鼻先と鼻先を最初に合わせることはしないのが犬社会の礼儀。
お互いに身体の側面を見せながら、相手のお尻のほうへ近づいていくのが礼儀正しい挨拶。
Suzyの補足解説
目と目があったら「喧嘩の合図」。人間でも、そういう人たちがいますね。
5. 尻尾を振る
Wagging tail
大抵は好意を表す。
嫌なら振らない、少し嬉しいときは小さく振る、とても嬉しいときはブンブン振るなど、振り方により内容は変化する。
Suzyの補足解説
尻尾を振っているからといって喜んでいるとは限らないということは知っておきましょう。
(ボディランゲージの「尻尾」の項を参照のこと)
6. 座る
Sitting down
状況が難しくなったときに出されるはっきりとした争いを避けるシグナル。
服従を表すだけではなく安全確保のためシグナル。
Suzyの補足解説
ただし、自分が相手のお尻の匂いをさんざん嗅いだ後に自分のお尻の匂いを嗅がれたくないがゆえに座ることはマナー違反で許されることではありません。
嗅ぎ逃げ、ダメ、絶対!
7. どこかに行ってしまう
Go away
犬同士がお互いを認めた後に見られるシグナル。
安心感や快適さを表すシグナルです。
Suzyの補足解説
お散歩中に出会った犬同士が、一通り匂いを嗅ぎあった後にすっとお別れするのは、決して仲が悪いわけではないのです。
8. 前足を上げる
Lifting ones paws
緊張や興奮を落ち着かせようとしているシグナル。
Suzyの補足解説
先代のポコちゃんがよくやっていました。
9. 鼻を持ち上げる
Nose up
天を仰いで嗅いでいるようなしぐさは、自分が相手に敵意をもっていないということを訴え、相手を落ち着かせようとするシグナル。
人に対しておこなうばあいは、人に何かをして欲しいとき。
Suzyの補足解説
対イヌとヒトでシグナルを使い分けるって、冷静に考えるとすごいことです。
10. 2頭のあいだを裂く
Going between, splitting up
争いを仲裁する行為。
ほかの2頭が近づきすぎたときに距離を保ち、ケンカをしないよう促す行為。
Suzyの補足解説
ドッグランでも学級委員長タイプの犬がよくやっています。
そして、家でもソファなどで人間同士がくっついていると、愛犬があいだに割って入ったりするのは、このような理由からです。
間に割って入るのは、やきもちからではなく「近すぎてケンカになる」と思われているのですね。
11. あくびをする
Yawning
自分と相手の緊張をほぐす行為。
Suzyの補足解説
緊張している犬の目の前であくびをして見せると犬の緊張をほぐせるとか・ほぐせないとか。
もちろん、眠たいから出るときもありそこは人間と一緒です。
12.体を振る
Shaking off
緊張をほぐすシグナル。
嫌なことを我慢した後に行うことが多い。
Suzyの補足解説
シャンプーの後によく見せるあの行動です。
決して、水切りのためだけにやっている訳ではないのです。
13. 身体を低い位置に落とす
Lower the body
今にも飛びかかろうといているこの体勢は歓迎・喜び・遊びの誘いのシグナル。
ただし、ほかのボディランゲージと総合して判断したばあい攻撃を表すこともあるので注意。
Suzyの補足解説
前から歩いてくる犬をフセして待っている犬の状態などがこれにあたります。
無表情で相手の犬を直視しながら待っているケースが多く非常に判断が難しいため、原則「攻撃」だと思っておいたほうが無難です。
14. 遊びの誘い
Going down in play position
尻尾を振りながら体を低い位置に落とす。
遊びの誘いや歓迎を表すシグナル。
犬は体全体で歓迎や喜びを表現する。
Suzyの補足解説
いわゆるプレイバウ(Play bow)というやつですね。
15. 子犬のように振る舞う
Like a puppy
子犬のようにじゃれついてみたり周りをはしゃぎまわったりする行動は、遊びの誘いのシグナル。
一緒にいることを喜んでいる。
Suzyの補足解説
もう、相当なおじさんの年齢ですが、タラ氏が仲良しのワンコを見つけるとよくやります。
16. そっぽを向く・頭を動かす
Turning the head
相反する2種類の気持ちを表していることが考えられます。
- 嬉しさの高ぶりを抑えるシグナル。お散歩に行く前や、ご飯の準備をしているときなどに「無関心」を装うような態度。
- もしくは、目線をそらせたり顔を背けたりするのは、相手が怖くて自分や相手を落ち着かせたい場合であることも。
Suzyの補足解説
17. 口元を後ろへ引く
Lengthen the corner
犬同士がお互いに顔を見合わせたときに交わされるシグナル。
相手に対して敵意がない・軽い服従を表すシグナル。
Suzyの補足解説
愛想笑いに近い?
18. 歯をカチカチと鳴らす
Tang the teeth
歯を鳴らしているとき、歯をむき出していなければケンカ腰の相手を落ちかせようとするシグナル。
歯を鳴らしているときに首の毛が逆立っていたり、歯をむき出している場合は威嚇のシグナル。
Suzyの補足解説
判断が難しいところですが、カーミングシグナルとして使う子は珍しい(柴犬でやる子が多いかな)ため、どちらにせよ、愛犬がこの表情を見せたら、無理強いをしないことが賢明です。
19.口と鼻の周りをなめる
Licking nose
犬に対してみせるばあいは、相手に敵意をもっていないことを表すシグナル。
人間に対してみせるばあいは、喜びのシグナル。
Suzyの補足解説
ルガース氏は「喜びのシグナル」とも言っていますが、これまで多くの犬たちを見てきての実感としては、圧倒的に緊張しているときに出ることが多いように思います(犬に対してのほう)。
20. 口をパクパクさせる
Gasp the mouth
嫌がる気持ちを抑えているのではないかと思われるシグナル。
Suzyの補足解説
あまり使う犬はいませんが、ときどきいます。
テンパっているときに出るイメージです。
「あわあわ」しちゃう感じでしょうか。
21. 背中を向ける
Turning the back
相手を落ち着かせるためにみせる典型的なシグナル。
相手を嫌がっている行動ではない。
Suzyの補足解説
犬に対しても、背中を見せると安心するようです。つまり、無視して背中を向けるとか、犬に効果がないということです。反対に、守るつもりで正面に向き合うと、責められていると感じてしまいます。
22.おしっこをする
Pee
犬同士が認め合った後にするオシッコは、「友達になった」というシグナル。
Suzyの補足解説
タラ氏がよくやります。
人間社会にも「連れション」ありますね。
23. その場所にいないように振る舞う
Acting like nothing happen
「15. そっぽを向く・頭を動かす」と同様、高まる不安や興奮を抑えようとしているシグナル。
Suzyの補足解説
ポコちゃんの得意技でした。
これは本当に多くのワンちゃんたちがよく出すシグナルなのですが、多くの飼い主がそれと気づかないシグナルでもあります。
24. 静止
Freeze
犬と会ったときにするばあいは「1. ゆっくり歩く」と同じ意味をもち、相手にシグナルが通じているかどうかを判断している行為。
Suzyの補足解説
相手の考えや出方を探っている状況ということですね。
25. 地面の臭いを嗅ぐ
Sniffing the ground
知らない場所や犬同士出会ったときにする行動。
不安や興奮を抑え自分を落ち着かせようとしているシグナル。
Suzyの補足解説
これも本当に多くのワンちゃんたちがよく出すシグナルなのですが、多くの飼い主がそれと気づかないシグナルでもあります。
26. 伏せる
Lying down with belly to the ground (looked sphinx-like)
相手を落ちかつかせるための最上級のシグナルです。
「座る」より意味合いが強い。
ただし、ほかのボディランゲージと総合して判断した場合、攻撃を表すこともあるので注意。
Suzyの補足解説
「13. 身体を低い位置に落とす」と似たような内容です。
「フセ」には犬社会の言語としてこのような強い意味をもつためSuzyのトレーニングではコマンドで従わせる姿勢として「フセ」を教えることはしません。
「フセ」はあくまでも犬自身の感情表現。
本来の使い方を取り戻します。
27. 顔の向きを変える
Turn head in the other direction
顔を見るのは相手に対する威嚇になってしまうため、相手に対して敵意がないことを示すために、相手の顔を見ないようにするために、顔の向きを変えるというシグナル。
Suzyの補足解説
28. 目をそらす
Avoid eye contact
顔の向きを変えることができない状況、もしくは顔の向きを変えたうえでさらに、相手を刺激しないための追加手段として、相手から目をそらすシグナル。
避けたい状況を避けられないとき、せめて目だけでも逃げて距離をとりたい気持ちの表れとも受け取れるシグナル。
Suzyの補足解説
目をそらすときに「白目が見える」ことから、このシグナルを「白目を見せる」ということもあります。
29. 笑う
Smiling
人間のようにニッコリ笑うことができる犬が少ないため滅多に見ることができない、非常に珍しいシグナル。
Suzyの補足解説
本当の笑顔なのか、愛想笑いなのかの判断は、普段からそのシグナルを出す犬と付き合っていないと全く判断がつかないでしょう。
30. 転移行動
Re-directional behavior
精神分析用語。
ある特定の対象に向けられていた感情がほかの対象に向けられたり別の形で行動に表されたりすることで『防衛機制』のひとつ。
不安・葛藤、フラストレーションなどから自己を守ろうとして働くさまざまな心の仕組み。
Suzyの補足解説
具体的には「思っていることと違うことを表すシグナルを発する」という非常にややこしいものです。
素人目にはなかなか気づけないカーミングシグナルです。
飼い主も読み取れるようになろう!
犬は犬だけでなく人に対してもこのサインを使っています。
愛犬は上記に挙げたもののうちどれをカーミングシグナルとして使っているのか、また、お散歩中に出会うワンちゃんたちがどれをカーミングシグナルとして使っているのかを、われわれ飼い主も日々注意深くしっかりと読みとるように意識します。
ほかの犬が近づいてきたときや見知らぬ人に囲まれたときなど大なり小なりストレスを感じたときに犬たちが非常によくカーミングシグナルを発していることに気づくはずです。
そして、犬たちが発するカーミングシグナルを理解できるようになったら愛犬が相手に対して適切な対応がとれるよう親犬に代わって手伝ってやれるようになるところから、飼い主と犬は信頼関係の構築をスタートすることができるのです。
愛犬のボキャブラリーを育てよう
すべての犬がこの30種類すべてのカーミングシグナルを使いこなすわけではありません。
しかし、たくさんの種類のシグナルを使える(出せる・読める)犬こそが「コミュニケーション能力の高い犬」なのです。
相手の気持ちを読み取れず、自分本位に行動する犬はコミュニケーション能力が低いのです。
人間の子どもが生まれてすぐに言葉を話さないのと同様に犬も生まれつき上手にカーミングシグナルを使えるわけではありません。
飼い主であるあなた自身が愛犬が表すシグナルを素早く読みとることができれば追い詰められた挙句の威嚇行動(吠える、飛びかかる、噛むなど)を未然に防ぐことができるようになります。
また、犬は自分の気持ちを理解してくれる(話が通じる)相手を信頼しその相手の言うことをよく聞くようになります。
飼い主が犬の気持ちを読み取り適切に対処することができるようになると、愛犬は落ち着いた犬に育ってくれるのです。
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