犬たちは日本語を話しませんが、犬のことばをもっています。
犬とともに暮らす人は、犬のことばを学びましょう。
犬の気もちを読み取るスキルを身に付けさえすれば、心のボタンを掛け違えることはなくなります。
そして、飼い主か愛犬のどちらか一方だけがガマンを強いられることのない、イヌ・ヒトの双方にとっての「より良い暮らし」が実現できます。
犬の「微表情」を読む
「犬のことば」と聞くと、吠えたり、泣いたりする声のことだと思いがちですが、犬が声を発するのは声を出さないと通じないときの最終手段です。
古来、犬たちは群れで生活し狩りをして生活をしてきました。
むやみに吠えていたら、自分の居場所を外敵に知られてしまい、群れの命を危険にさらすことにもなります。
また、狩りをする際も効果的なここぞというタイミング以外で吠えてしまえば獲物に気づかれてしまい捕まえることができません。
獲物を捕まえることができなければ、群れはご飯を食べることができず、群れが存続できなくなってしまいます。
このような理由から、本能的に犬たちはノンバーバルコミュニケーション(非言語)をメインに仲間たちと意思疎通を図るよう遺伝的にプログラムされています。
犬語図鑑:犬のボディランゲージを学んでもっと愛犬と仲良くなろう(リリー・チン)
PALのレッスン等で飼い主さんに配布している『犬語』のリーフレットは、ニューヨーク在住のイラストレー...
ボディランゲージがメイン
では、普段犬たちはどのようにして周囲とコミュニケーションをとっているのかというと「ボディランゲージ」なのです。
このボディランゲージの段階で犬の気持ちや意図を理解し、適切な対処(なんでも言うことを聞いてあげることとは違います)をすることによって、犬は自分の気持ちに気づき、導いてくれる人のことを信頼するようになります。
犬の気持ちが表れる場所
犬たちは顔の表情や全身のパーツを使ってさまざまな感情を示しています。
主なパーツは以下のとおりです。
- 耳
- 目(視線)
- 鼻・口(舌)
- 尻尾
- 姿勢
- 毛並み
ざっと挙げただけでも、6つのパーツがあります。
これらのパーツに表される変化を総合して、犬の気持ちを判断していきます。
犬語の表れ方
また、先に挙げたとおり、複数の身体のパーツを使って気持ちを表すことから、以下の点にも気を配って読み取る必要があります。
- 同時に複数だす
- 瞬時に変化する
- 個体により程度が異なる
同時に複数だす
犬たちは一つのパーツだけを使って気持ちを表すことはありません。
複数のパーツを使って自分の気持ちを表します。
このため、身体のパーツそれぞれが表しているボディランゲージを総合的に判断する必要があります。
一部のボディランゲージだけを見てヒトが誤解しがちな例としては、以下のようなものがあります。
- 尻尾を振っている
- 笑顔(に見える)
たとえば、しっぽを振っているのは単なる「興奮度の合い」を表しているだけです。
尻尾の動きだけを見て、喜んでいるのか、怒っているのかを判別することはできません。
また、一見笑顔のように見えても実際には「引きつっているだけ」であることもあります。
無理やりな笑顔はカーミングシグナルの一種で、相手を落ち着かせようという愛想笑いのような場合もあるのです。
カーミング・シグナルをおぼえよう!
犬が身体で自分の気持ちを表す「ボディーランゲージ」のなかには、「カーミング・シグナル」と呼ばれるカテ...
瞬時に変化する
犬同士が出会ったとき、犬たちはまず、お互いの力関係を推し量ります。
相手を観察しながら(匂いを含めて)さまざまな情報を読み取って判断していきます。
その過程において、状況は刻一刻と変化していくため、一瞬の変化を見落とさないことが重要になっていきます。
犬種による傾向も考慮
人間にも、気持ちを大げさに表現する人や、反対に感情をあまり顔に出さない人など、いろいろな性格の人がいます。
それと同じように、犬たちの性格もさまざまです。
犬たちが出すシグナルの程度も、その性格によって異なります。
大げさに表現している分には分かりやすいのであまり心配はいりません。
しかし、注意したいのは感情表現が乏しい(または未熟な)タイプです。
柴犬などの和犬
柴犬などの和犬は洋犬に比べて感情表現が抑え目であるため、より気を付けて目を配る必要があります。
たいして怒っていない、警戒していないだろうと思っていても、突然攻撃に転じて噛みつくこともあり、ケンカやケガなどのトラブルに発展することがあります。
経験不足の小型犬
また、早期に母犬と別れ、他の犬と適切に関わる経験を積んでこなかった小型犬は、犬社会のルールを学んでいません。
このため、自分の気もちを表現する際に、間違えたボディランゲージを使うことがあり、これも注意が必要です。
ぺちゃ系犬種
ぺちゃ系犬種(パグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアなど)は、他犬種と比べて鼻先が極端に短く作られています。
鼻の周りはボディランゲージを示す大事なパーツです。
しかしながら、これらの犬種はもとから鼻の周りにシワが寄ってしまっています。
鼻の周りにシワを寄せるのは、犬にとって不快や嫌悪の表現なのですが、ぺちゃ系犬種は、このボディランゲージを示すことが難しいのです(正確には他犬種が読み取りづらい)。
また、常時鼻息が荒く、これも他犬種に警戒されてしまいがちです。
さらには、尻尾も他犬種と異なる特徴的な極端に短いため、尻尾をつかった表現もきちんと使うことができません。
他犬種と仲良く関わることが難しく、同じ犬種同士で集まること(多頭飼いも)が多いと感じます。
断耳・断尾された犬種
さまざまな目的のために作られた純血種は、その目的のために耳や尾の一部を切り取るようになりました。
その仕事をしないにも関わらず、今日も犬種の標準として断耳や断尾が行われています。
耳も尻尾も犬が気持ちを表現するための重要なパーツです。
これらを奪われたことで、表現に誤解が生まれ、他犬種とのコミュニケーションに苦労することがあります。
日本で多く飼育されているさまざまな純血種は、不自然な見た目を持たされた結果、ボディランゲージを用いて自分の気持ちを表現することが難しくなっています。
人間の単なる楽しみのために身体の形状を作り替え、犬の表現手段を奪っていることの是非について、一人ひとりがもっと真剣に考える必要があるのではないでしょうか。
犬語の勉強の進め方
これから犬のことばを学び始めようというときに、いろいろなことをいっぺんに覚えることはできません。
このため、以下のようにステップを踏みながら理解していくことをお勧めします。
- 最初は部分を決めて、そこに注目してみる(単語)
- 1頭の犬全体をみて,その犬から複数発せられているボディランゲージをみて,その意味を総合的に判断する(文法)
- 複数の犬(人)を俯瞰して,それぞれが発しているボディランゲージを読む(会話)
1)単語を覚える
それぞれのパーツにおける一般的な動きと意味については、さまざまな媒体で紹介されているので、まずはそれを覚えます。
そして、最初は一つのパーツ(例えば耳など)を決めて、そこに注目して愛犬のボディランゲージを観察します。
そして、そのパーツの動きの後に起こった結果から、どのような意味があったかを推測します。
最初に覚えたパーツの動き(ボディランゲージ)の意味と結果が異なるときは、読み方を間違えたかその犬がレアケースかのどちらかですが、単語にフォーカスしている段階ではあまり気にしなくてよいです。
そのパーツの読み取りができるようになってきたら、どんどん他のパーツの観察訓練に移っていきます。
一つ一つの動きを覚えて、それを実際に目にする(体験する)ことには、それほど時間はかからないはずです。
2)文法を理解する
犬のボディランゲージを構成する身体のパーツ一つひとつの動きと意味をおおよそ理解できるようになったら、次のステップに移ります。
これまでは、自身の愛犬の身体の一つのパーツにのみ注目して観察してきましたが、愛犬の身体全体を俯瞰でみて、複数のパーツから発せられているボディランゲージを観察します。
そして、それぞれのパーツの表す意味を総合的に判断して、今の気持ちを推測していくのです。
ボディランゲージを見て予測した内容と、実際に起きた結果を比較して、それが合っていたのか、読み間違えたのかを考えます。
これらを繰り返していくことで、愛犬の気持ちをよみとる力がついていきます。
3)会話を理解する
さいごは、自分の犬だけでなく、相手の犬のボディランゲージも俯瞰して観察していきます。
そして、それぞれの犬が身体の複数のパーツを使って表しているボディランゲージの意味を読み取っていきます。
これが、犬同士の会話です。
音もなく繰り広げられる犬同士の会話が読み取れるようになると、犬たちとのかかわりがもっと面白くなります。
そして、犬の気持ちを読み誤っている飼い主の犬によるトラブルを未然に防ぐことができるようになります。
複数の犬を同時に読み取るスキルを身に付ける
また、犬同士の交流はいつも1対1とは限りません。
お散歩中に3~4頭が同時に出くわすこともありますし、ドッグランなどへ行けばより多くの犬が同時に関わることになります。
このため、複数の犬たちが同時に発するボディランゲージを適切に読み取り、状況を把握してトラブルを防ぐことが飼い主には求められます。
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