あなたは、愛犬と家でのんびり過ごす時間をどのように使っていますか?
ソファに座って抱っこをしたり、なでたり、見つめ合ったり——そんな時間ももちろん大切です。
けれど、じつは「ブラッシング」は飼い主と犬の信頼関係を深める最高のスキンシップだということをご存じでしょうか。
ブラッシングは、毛を整えるためだけの単なる作業ではありません。
それは、犬にとって「飼い主からの愛情表現」であり、心を通わせるためのコミュニケーションでもあるのです。
この記事では、
- 犬にブラッシングをすることで得られる3つの大きな効果
- 嫌がる犬への正しい対処法
- 犬との絆を深めるブラッシング習慣のコツ
について詳しく解説していきます。
毎日のブラッシングを「ただの手入れ」から「愛犬の心を育てる時間」に変えていきましょう。
なぜ「毛をとかす」だけで関係が変わるのか?
犬にとってのブラッシングは、人間でいうマッサージやヘアケアのようなものです。
皮膚をやさしく刺激されることでリラックスし、飼い主の手の感触から安心を感じます。
母犬が子犬を舐める「グルーミング行動」
犬社会には、母犬が子犬を舐める「グルーミング行動」があります。
この「グルーミング行動」は、皮膚を刺激して血流を促したり、排泄を促す刺激となったり、体表の汚れを取り除く効果があり、犬は本能的にこれを受け入れます。
ブラッシングは「疑似グルーミング行動」
ブラッシングは、この「グルーミング行動」を模した行為にあたり、飼い主が“母犬のような存在”として信頼を得ることのできる行為でもあるのです。
つまり、ブラッシングは、犬に「この人は自分を大切にしてくれる」というメッセージを伝える手段。
日々これを繰り返すことで、犬の心に「この人は安心できる」という信頼が深く刻まれていくのです。
ブラッシングの3大効果
犬にブラッシングをすることには、以下の3つの効果があります。
1)抜け毛を取り除き、皮膚と被毛を清潔に保つ
最も分かりやすいブラッシングの効果は、抜け毛の除去です。
特に春と秋の「換毛期」には、犬の毛がごっそりと抜けます。
この時期にブラッシングを怠ると、家中が毛だらけになるだけでなく、犬自身が不快な状態に。
抜け毛を放置すると、
- 通気性が悪くなり皮膚に湿気がこもる
- 汚れや皮脂がたまりやすくなる
- かゆみや炎症、皮膚病のリスクが高まる
といったトラブルにつながります。
換毛期以外も、一年中、毛は抜けます。
定期的なブラッシングで抜けた毛をこまめに取り除くことにより、皮膚トラブルを防ぐことができます。
とくに、皮膚トラブルが起きやすいシニア犬やアレルギー体質の犬にとって、ブラッシングは“健康管理の第一歩”といえるでしょう。
2)血行を促進し、健康な毛と体をつくる
ブラッシングは、犬の皮膚をやさしく刺激して、血流を良くする働きがあります。
血液の流れが良くなることで、毛根までしっかりと栄養と酸素が行き渡ります。
すると、健康的な毛が育ちやすくなり、毛のツヤも増すなど、毛質が目に見えて改善します。
さらに、血行促進は体全体の健康にも好影響を与えます。
ブラッシングを通じて血流を整えることで、筋肉のコリがほぐれ、疲労回復にも役立ちます。
とくに、お散歩の後に軽くブラッシングをしてあげることは、「クールダウン」や「リラックスタイム」として最適です。
これは、犬のボディケアとメンタルケアを同時にかなえる習慣といえるでしょう。
3)オキシトシンの分泌で“心の絆”を深める
ブラッシングの最も重要な効果はオキシトシンの分泌です。
オキシトシンとは、「愛情ホルモン」または「幸せホルモン」とも呼ばれ、母親が授乳をしたり、赤ちゃんを抱くときのほか、人が恋人や家族と触れ合うときにも脳内で分泌されます。
また、麻布大学の研究によれば、犬と人間が見つめ合ったり撫でたりするときにも、双方の体内でオキシトシンが増えることが確認されています。
このホルモンの作用により、
- 飼い主と犬の間に安心感と信頼が生まれる
- ストレスや不安が軽減される
- 穏やかで安定した性格に育つ
といった心理的な効果が得られます。
つまりブラッシングとは、「毛をとかす行為」のみならず「心をとかす行為」でもあるのです。
ブラッシングを嫌がる犬へのアプローチ
とはいえ、
うちの子はブラシを見ただけで逃げる
という飼い主さんも少なくありません。
犬がブラッシングを嫌がるときは、必ず理由があります。
ここでは、よくある3つの原因と改善のポイントを紹介します。
1)力加減が強すぎるケース
犬の皮膚は、人間よりも薄く敏感です。
犬の皮膚は繊細
ブラシをかける人の力が強すぎることが原因であることも多いです。
ブラシを強く押し当てすぎると痛みを感じ、「もうやりたくない」と思われてしまいます。
このばあいは、“なでるように触れる”ていどの力加減に力の強さを調整してあげれば、ブラッシングを受け入れるようになるでしょう。
一気にやろうとしない
また、飼い主が一度に広範囲の毛をとこうとすることが原因であることも多いです。
このばあいは、「一気に毛をきれいにしよう」と考えず、短いストロークで小刻みにブラッシングを繰り返すようにします。
ブラシはゆっくり動かす
いずれのばあいも、毛の流れに沿ってゆっくりとかしてあげましょう。
ブラッシングに慣れてきたら、愛犬がうっとりと目を細めたり、身体の力が抜けて横になったりするようになります。
これは、犬が「気持ちいい」と感じているサインです。
2)ブラシの種類が合っていないケース
犬には、さまざまな毛質や毛量の犬種が存在します。
この毛質のタイプにごとに、適切なブラシの種類が異なっています。
これを知らずに合わないブラシを使っていることで、愛犬のブラッシング嫌いや皮膚トラブルを招いていることも少なくありません。
被毛のタイプによる基本的なブラシの使い分けは、以下のとおりです。
- 【短毛種】ラバーブラシや獣毛ブラシ
- 【長毛種】ピンブラシやスリッカーブラシ
- 【ダブルコート犬】アンダーコート用のコームやファーミネーター
毛質に合わないブラシを使うと、皮膚や被毛にさまざまなトラブルを引き起こします。
とくに、乾燥した季節にナイロン製やプラスチック製のブラシを使うと、静電気が起きやすくなり、被毛を傷める原因になることもあります。
また、スリッカーブラシは針金の先が鋭いため、直接皮膚に当てて傷をつけてしまわないように、初心者は注意が必要です。
スリッカーブラシは慣れるととても便利な道具ですが、間違った使い方で愛犬を「ブラッシング嫌い」にしやすいブラシNo.1のブラシでもあります。
トリミングサロンなどで扱い方を教わり、「柔らかめ」のスリッカーから試すのがおすすめです。
3)過去にブラシで嫌な経験をしているケース
トリミングや抜け毛処理で痛い思いをした犬は「ブラシ=怖いもの」と記憶していることがあります。
このばあい、ブラシに対するイメージを書き換えるところから、スタートしなければなりません。
まずは、ブラシを見せるだけで褒めるところから始めましょう。
「ブラシが出てきても怖くない」と再学習させるのです。
- ブラシを見せる → 褒める
- ブラシを顔の近く(首や肩)に近づける → 褒める
- ブラシの背で触れる → 褒める
- ブラシの背でなでる → 褒める
- ブラシでなでる → 褒める
- ブラシをかける → 褒める
と、徐々にステップアップしていきながら、ブラシに対する嫌な印象を消していくのです。
③~⑥は、愛犬が受け入れやすい身体の場所からスタートして、最終的には体中どこでも全部、ブラシが大丈夫になるように慣らしていきます。
多少時間はかかりますが、決して焦らず、犬が安心してブラッシングを受けられるようになることを最優先に考えて取り組みましょう。
結果的に、ブラシになれるまでの時間が早くなります。
また、この方法は過去にブラシで嫌な経験をした犬かどうかにかかわらず、野犬出身の保護犬やシャイな犬、攻撃性の高い犬など、あらゆる犬をブラシに慣らすために使える方法です。
ブラッシングの頻度とタイミング
健康チェックの一環でもあるので、ブラッシングは毎日の習慣にしたいものです。
しかし、やりすぎは、かえって皮膚や被毛を痛めてしまうことにもなりかねないので注意が必要です。
1回あたりの時間を短くしたり、ブラシをかける部位を日ごとに変えるなどの工夫をすることが必要かもしれません。
ブラッシングのタイミングは食後すぐなどは避けて、散歩のあとや就寝前など、犬が落ち着いている時間がおすすめ。
とくに夜のブラッシングは、「1日の終わりの癒しタイム」として効果的です。
ブラッシングを通して愛犬と“会話”しよう
ブラッシングの時間は、飼い主と愛犬にとっての「対話」の時間です。
犬は言葉ではなく、あなたの手の感触や呼吸、表情、声のトーンなどから感情を読み取っています。
もし、あなたがイライラしたままブラッシングをすれば、犬はその緊張を感じ取り、リラックスどころか苦痛を感じてしまいます。
逆に、ゆったりとした呼吸で、優しく話しかけながらブラッシングをすれば、犬はリラックスできます。
「今日のお散歩は楽しかったね」「気持ち良いね」「いい子だね」などと、声をかけながらブラシをかけるだけで、犬はその声の響きと手の温もりを通じて、「自分は大切にされている」と感じ取ります。
まとめ:ブラッシングは“毛を整える時間”から“心を整える時間”へ
ブラッシングは、単なる被毛の手入れではありません。
飼い主と愛犬の信頼関係を深める最も自然なコミュニケーションの形です。
優しく触れながら、愛犬の表情・体温・毛の状態に気づくこと。
それが、健康チェックにも、心のケアにもなります。
その時間を積み重ねることで、「ブラッシング=幸せな時間」と犬が感じるようになるのです。
毎日のブラッシングを通じて、毛だけでなく、心のつながりも育てていきましょう。
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