
[Q.]柴犬のしつけが難しいのはどうしてなの?

A. 柴犬は洋犬向けのしつけメソッドが根本的に通用しない犬種だからです。気質の違いを理解せずに「ご褒美でつる」「叱らない」アプローチを続けると、問題行動はむしろ悪化します。
「柴犬を飼い始めたけど、言うことを全然聞かない」
「噛みつくようになってしまった」
「しつけ教室に通ったのに改善しない」
これまでに、20年以上、延べ8000頭以上の犬を指導してきた中で、柴犬・和犬オーナーからのこうした相談は後を絶ちません。
結論からお伝えします。柴犬のしつけがうまくいかない最大の理由は、「洋犬用のしつけ方法をそのまま使っているから」です。
柴犬のしつけが難しいと言われる理由
柴犬は、ゴールデン・レトリーバーやラブラドールとは根本的に異なる気質を持っています。
その違いを無視してしつけをしても、うまくいくはずがないのです。
洋犬向けメソッドが通用しない
現在、日本のしつけ情報の大半は、欧米発の「ポジティブ・トレーニング(褒めてご褒美を与える)」をベースにしています。
この方法は、ゴールデン・レトリーバーやボーダー・コリーのような「人と協働することに喜びを感じる犬種」には有効なケースもあるでしょう。
しかし柴犬には、そもそもこの前提が当てはまりません。
柴犬(和犬)は何千年もの間、人の指示を受けながらも単独で判断・行動することを求められてきた猟犬です。
人間に依存せず、自分で考えて動く能力こそが、柴犬の本質です。
「人に褒めてもらうために行動する」という動機が、洋犬ほど強くないのです。

オヤツが効きにくい理由
「ご褒美にオヤツを使う」しつけが柴犬に通用しにくい理由も同じです。
オヤツを使ったしつけは「食べ物という外発的動機」で行動をコントロールしようとするアプローチです。
これは、もともと人間との協働に内発的動機を持つ洋犬には有効です。
しかし柴犬は、オヤツで気を引けている間だけ従うという状態になりやすい。
オヤツがなければ従わない、オヤツより気になるものがあれば無視する——こうした「ご褒美待ち犬」になってしまう柴犬を、私はこれまで何頭も見てきました。
しつけの目的は「オヤツがある状況でだけ従う犬」を作ることではありません。
飼い主との信頼関係をベースに、いかなる状況でも指示に従える犬を育てることです。

「叱らないしつけ」が逆効果になるケース
「叱ってはいけない」「怖い思いをさせてはいけない」という考え方が広まっています。
しかし私は、この考え方を柴犬に無条件に適用することには反対です。
柴犬は、群れの中でのルールと序列を本能的に理解しようとする犬種です。
飼い主が明確な態度を示さないと、柴犬は「この人間は頼りにならない」と判断し、自分が群れのリーダーとして振る舞おうとします。
噛みつく、唸る、飼い主の言うことを無視する——こうした問題行動の多くは、「叱られない環境で育った柴犬が、自分なりのルールで行動するようになった結果」です。
きちんと叱り、きちんと褒める。
この両方があってこそ、柴犬との信頼関係は築けます。

柴犬の気質を正しく理解する
独立心と警戒心の強さ
柴犬の最大の特徴は、独立心の強さです。
洋犬の多くは「飼い主の側にいたい」「飼い主に喜んでほしい」という欲求が行動の動機になります。
しかし柴犬は、飼い主のそばにいながらも「自分の判断で動く」ことを好みます。
また、警戒心の強さも柴犬の重要な気質です。
見知らぬ人や犬に対して容易に心を開かない。
これは猟犬としての本能であり、欠点ではありません。
しかし、この気質を理解せずに「社会化」と称して無理に他の犬や人に近づけようとすると、防衛的な攻撃行動を引き出すことになります。
群れの中での役割意識
柴犬は、自分が属する「群れ(家族)」のために何ができるかを常に考えています。
飼い主がしっかりとしたリーダーシップを持っているとき、柴犬はその群れの中で安心して自分の役割を果たせます。
しかし、飼い主が頼りなく見えるとき、柴犬は「自分がこの群れを守らなければならない」という責任感から、過剰な警戒行動や攻撃的な行動をとることがあります。
柴犬の問題行動の多くは「悪意」ではなく「責任感」から来ています。
この点を理解すると、しつけのアプローチが根本から変わります。
保護された和犬の場合
保護犬として収容された野犬(和犬系の雑種)や和犬は、さらに複雑な心理状態にあります。
過去のトラウマや不適切な扱いから、人間全般への不信感を持っているケースが多い。
こうした犬に対しては、まず「この飼い主は信頼できる」という実績を積み重ねることが最優先です。
急いでコマンドを教えようとしない。
ベタベタすることを強制しない。
でも、和犬特有の意思表示に怯まない。
和犬のプライドを尊重しつつ、一貫して信念を伝え続け、信頼関係を一歩ずつ構築していく——この忍耐が、保護された和犬のしつけには不可欠です。
柴犬に合ったしつけのアプローチ
叱り方の原則
柴犬を叱る際に最も重要なのは、「タイミング」と「一貫性」です。
問題行動が起きた瞬間に、明確に「No」を伝える。
声のトーンは低く、短く、はっきりと。
長々と叱り続けることは意味がありません。
柴犬は既に叱られた理由を理解しており、それ以上続けることは飼い主への不信感を生むだけです。
また、同じ行動に対して「今日は叱る、明日は叱らない」という一貫性のない対応は厳禁です。
柴犬は非常に鋭敏で、飼い主の態度の矛盾をすぐに見抜きます。

褒め方の原則
柴犬を褒めるときも、過剰なテンションは逆効果です。
「よし!」と短く明確に伝え、必要に応じて軽く撫でる。
興奮させるような大げさな褒め方は、柴犬を不安定でキレやすい落ち着きのない状態にします。
「確信を持って、そっと褒める」——これが柴犬への正しい褒め方です。
言葉すら不要であることも少なくありません。

首輪を使ったコントロールの重要性
柴犬のしつけにおいて、私が必ず推奨するのが首輪の使用です。
ハーネス単体では、飼い主の意図を正確に柴犬に伝えることができません。
柴犬のように意志の強い犬種には、首輪を通じたシグナルが不可欠です。
首輪はコミュニケーションツールです。
リードを通じて飼い主の意図を伝え、柴犬が正しい行動をとったときに即座に緩める——この繰り返しが、信頼関係の構築につながります。
首輪のサイズと着け方については「首輪の正しい着け方」で詳しく解説しています。
信頼関係を築くための日常習慣
しつけはトレーニングの時間だけで完結しません。
日常生活の中での積み重ねがすべてです。
食事のタイミングをコントロールする:
飼い主が食事を与えるタイミングを決める。
これだけで「飼い主が資源を管理する存在」という認識が柴犬に生まれます。
要求吠えに応じない:
柴犬が吠えたり騒いだりしたときに要求に応じると、「騒げば思い通りになる」という学習が起きます。
散歩のリーダーシップを維持する:
柴犬は直接狩猟犬なので、「常に飼い主の横にピタリとついて歩く」という行動を本能的に持ち合わせていません。
飼い主よりも一歩先を歩いて、一足先に状況を把握したいという本能があります。
このため、Suzyは和犬のトレーニングをする際に、厳密な脚側行進(きゃくそくこうしん)を強要することはしません。
しかし、「拒否柴」(行きたくない方向に行きそうなとき、歩きたくないとき、その場に座り込みを決め込む)を無条件に受け入れることはお勧めしません。
犬の行きたい方にだけ進み、犬が歩きたいときだけ歩くのを許していると、「自分が群れをリードする立場」であると誤解し、ほかの面でもいうことを聞かなくなっていきます。
愛犬と「根気比べ」をして、最終的には飼い主が方向を決め、ペースを決める——この積み重ねが、信頼関係に直結します。
【コラム】柴犬の「魂を抜く」——幼齢期にしか開かない窓
古くから柴犬を知る人たちの間に「柴犬の魂を抜く」という言葉があります。
生後4カ月までの幼齢期に、一度だけ行ない、確実に成功させなければなりません。
子犬を仰向けにして膝の上または床の上に寝かせます。
(長くなる可能性があるので座布団のなどがお勧め)
このとき、暴れて噛みついてくるでしょうが、
それにひるまず受け入れて大人しくなるのを待つのです。これを受け入れた後、全身くまなく触られることを当たり前として学ばせる。
このしつけが幼齢期のうちに完了した柴犬は、
その後は洋犬と同じように接しても、
問題行動が出にくくなると言われています。私自身、この言葉を耳にしたとき、長年の経験から
「まさにそうだ」と思いました。しかしこの「窓」は非常に短い。
私のもとに相談に来る飼い主さんのほとんどは、
生後6カ月を過ぎて問題行動に手を焼いてから来られます。
身体も力も大きくなってから「柴犬の魂を抜く」には、
大変な覚悟が必要になります。学術的には「社会化期(生後3〜13週齢)」という概念がありますが、
「魂を抜く」という言葉が指す体験の質と深度は、
一般的な社会化トレーニングとは別次元のものだと私は考えています。柴犬を迎えたばかりの方にお伝えしたいのは、
「まだ問題が起きていないから大丈夫」と思っているうちに、
この窓は静かに閉じていくということです。
よくある問題行動と対処法
柴犬の飼い主さんが「直したい」と思ってレッスンを受ける動機TOP3は以下の3点です。
- 噛みつき
- 吠え
- 引っ張り
噛みつき
柴犬の噛みつきは、私が最も多く相談を受ける問題行動です。
重要なのは、なぜ噛んだのかを正確に把握することです。
恐怖からの噛みつきと、優位性を示すための噛みつきでは、対処法が根本的に異なります。
恐怖からの噛みつきに対して強い叱りで対応すると、さらに恐怖が増して噛みつきが悪化します。
一方、「噛めば飼い主が引き下がる」という学習をしてしまった柴犬には、明確な「No」と、噛みつきが通用しないという実績の積み重ねが必要です。
噛みつきの問題は、悪化してからでは対処が困難になります。
子犬のうちから、「歯を人に当てることは許されない」というルールを一貫して教えることが最大の予防です。
吠え
問題行動として挙げられる柴犬の吠えには、大きく分けて「警戒吠え」と「要求吠え」があります。
警戒吠え:
警戒吠えは柴犬の本能であり、完全にゼロにすることは現実的ではありません。
しかし「飼い主が対応したから、もう吠えなくていい」と柴犬が理解し、吠え止むことができればよいのです。
飼い主が落ち着いて「確認した、問題ない」という態度を示すことが重要です。
要求吠え:
要求吠えは、絶対に要求に応じないことが原則です。
吠えれば叶う、という学習を一度させると修正が非常に困難になります。
引っ張り
散歩中の引っ張りは「私がリードする」という柴犬の意志表示です。
引っ張ったら立ち止まる、または逆方向に進む、そして「折れたら褒める」——この繰り返しで「引っ張っても思い通りにならない」ことを学ばせます。
犬が根負けしてこちらに従ったときにきちんと褒めないと効果がありません。
「今日は疲れているから引っ張らせてしまった」という例外を作ると、柴犬はその例外を標準として学習します。
飼い主側の一貫性と忍耐が必要です。

まとめ
柴犬のしつけで最も大切なことをまとめます。
1)洋犬向けのメソッドをそのまま使わない
柴犬の気質は洋犬と根本的に異なります。オヤツで釣る、叱らないといったアプローチが逆効果になるケースを理解してください。
2)飼い主がリーダーシップを持つ
柴犬が安心して暮らすためには、信頼できる飼い主の存在が不可欠です。きちんと叱い、きちんと褒める一貫した態度が信頼関係を生みます。
3)気質を理解したうえで接する
独立心・警戒心の強さは柴犬の欠点ではなく、本質です。その気質を尊重しながら、人間社会のルールを教えることが、柴犬との良好な関係につながります。
柴犬は、信頼関係が築けたとき、これ以上なく忠実で頼もしいパートナーになります。時間と忍耐が必要ですが、それに見合う関係が必ず築けます。
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